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水戸地方裁判所 昭和49年(ワ)346号 判決 1975年12月08日

原告

小島う

外七名

右八名訴訟代理人

古川清

被告

佐藤清

被告

日動火災海上保険株式会社

右代表者

久保虎二郎

右両名訴訟代理人

楢原英太郎

外一名

主文

一、被告らは各自原告小島〓うに対し金八一万六、九二九円および内金七四万六、九二九円に対する昭和四九年一〇月二二日より、原告小島元太郎、同小島弘、同小島贇則、同小島幸子、同鶴見和子、同松田節子に対しそれぞれ金三六万五、五〇〇円づつおよび内金三三万五、五〇〇円づつに対する前同日より各完済まで各年五分の割合による金員の支払をせよ。

二、原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

三、訴訟費用はこれを三分し、その二を原告らのその余を被告らの各負担とする。

四、この判決は原告ら勝訴の部分に限り、かりに執行することができる。

事実《省略》

理由

一原告ら主張の日時場所で被告佐藤運転の被告車と亡幾之助の乗車する被害車とが衝突した結果同人が傷害を受けたこと、同人は府中病院および青柳病院で入院加療したが、原告ら主張の日時に死亡したことは当事者間に争いがなく、また、被告佐藤が被告車を所有していること、同被告が被告車について自己を被保険者とし、被告会社を保険者とする自賠責保険契約を締結していることは当事者間に争いがないから、被告佐藤は被告車の保有者としての損害賠償責任を負い、被告会社は同被告が損害賠償責任を負うときは、被害者の請求に応じ、政令で定めるところにより、保険金額の限度で、損害賠償額の支払をなすべき義務のあることは明らかである。

二被告らは本件事故と亡幾之助の死亡との相当因果関係の存在を争うので、まず、この点について判断する。

<証拠>を総合すれば、亡幾之助は本件事故により頭部外傷、額部挫創の傷害を蒙り、直ちに一般外科、腹外科を専門とする府中病院に入院したが、一時意識混濁、血圧降下およびシヨツク状態があつたが漸次回復し、入院後約二時間後には意識は次第にはつきりして来たこと、頭部にある長さ約一〇センチメートルの開放創は縫合されて殆んど治癒したが、なお頭痛、頭重があり、入院三日目ごろから両手両足の先にしびれ感、脱力感が出、さらに尿失禁、浮腫等が出るようになつたこと、同病院では前後頭部写真撮影をした結果異常はなかつたけれども、脳外科関係の設備がなかつたので、昭和四八年一二月二九日脳外科および内科を専門とする青柳病院に亡幾之助を転院させたが、当時同人の意識は昏迷状態であつたこと、同病院でも頭部の諸検査をした結果、頭部の骨折はなく、脳脊髄液採取等の方法により脳圧を調べたが、その亢進もなく頭蓋内血腫の存在も認めなかつたのみならず、脳脊髄液の中にも出血が認められなかったこと、さらに脳波検査によつて高令者特有の大脳機能低下の所見だけで、異常な所見は認められなかつたこと、一方内臓関係についても検査した結果顕著な貧血、低蛋白血症、心臓障害があり、昭和四九年一月二一日の肝機能検査の結果肝臓に病変が認められ、その後次第に肝臓の機能が低下していつたこと、亡幾之助の直接の死因は慢性心不全であるが、前記の如き内科的な合併症および褥創による発熱、気管支炎の併発によつて心臓に負担がかかつた結果惹起されたものと考えられること、亡幾之助は当時七六才(明治三〇年六月六日生)の高令者であつて、本件事故当時既に潜在的に心臓疾患や肝機能障害を有し、本件事故を契機としてそれらが顕在化したのではないかとの疑いも存しないわけではないこと、以上の各事実が認められるのであつて、これによれば、亡幾之助の死亡は本件事故による頭部外傷、額部挫傷およびこれと相当因果関係のある傷害に基因するものとはたやすく認め難いものと言はなければならない。

しかしながら<証拠>を総合すれば、亡幾之助は生前極めて健康で殆んど病気にかかつたことも、医者通いをしたこともなく、養豚をしていたため毎日自転車に乗つてその飼料(残飯)を集めていたこと、肝機能検査については府中病院においては異状が認められず、青柳病院においても昭和四九年一月七日当時においては正常であつたが、前記の如く同月二一日の検査の結果はじめて肝機能の悪化が認められたこと、一般的に交通事故などのシヨツクにより被害者は肝症候群を惹起することもありうること、亡幾之助は府中病院入院当初から微熱が続き、それは本件事故によつて蒙つた外傷によるものと考えられるが、青柳病院においても発熱は間歇的に続いており、生活反応に乏しい高令者の場合臥床による運動不足や衰弱と相まつて気管支炎の発病を容易にすることは通常起りうること、亡幾之助は青柳病院当時昼夜の別なく大声を出していたため、個室に移されたこともあり、脳障害が存在したことの疑いも否定し難いこと、以上の各事実が認められるのであつて、この事実からすれば、亡幾之助の死亡と本件事故との相当因果関係をたやすく否定し去ることも妥当ではないと考えられる。

以上の如く本件事故と亡幾之助の死亡との関係については青定、否定両方の証拠が存するのであるが、当裁判所は総合的考察の結果、右相当因果関係の存在を六〇パーセント肯定することとする(因果関係の割合的認定)。従つて亡幾之助の死亡による損害についてはその六割をもつて賠償額とする。

三そこで、過失相殺の抗弁について判断するに、<証拠>を総合すれば、亡幾之助は幅員5.6メートルの道路を石岡駅方面から竹原方面に向い道路の左端約一メートルのところを、かなり多量の残飯を詰めた一斗鑵を荷台に積み被害車に乗車して進行していたところ被告佐藤はこれを二三メートル後方に至つて発見し、時速四〇キロメートルで進行し、被害車の右側を追越そうとしたが、このような場合運転者としては対向車もなかつたのであるから、被害車の横の間隔を十分にとりながら進行すべき義務があるのに、これを怠り、わずかに間隔一メートル足らずのところを進行した過失により本件事故が発生したのであるが、他方亡幾之助においても後進する被告車に十分注意することなく、その直前で突如道路の中央に寄つた過失のあることが十分に推認されるところ、その過失割合は亡幾之助につき二、被告佐藤につき八と定めるのを相当とする。

四損害

1、入院雑費

<証拠>によれば、原告らは亡幾之助の青柳病院入院中の雑費(マツサージ料、家政婦付添料等を含む)として合計金八万九、二九〇円を支出したことが認められる(なお、特段の事情の認められない本件においては右入院雑費は原告ら主張の如く均分負担したものと認めて差支えない)。

被告らは右入院雑費については既に支払済みであると主張するが、被告佐藤の本人尋問の結果のみによつてはこれを認めるに足らず、他にこれを認めうる証拠はない。

しかして、亡幾之助の前記過失を考慮すれば、原告らが請求しうべき賠償額は金七万一、四三二円となるから、原告らはそれぞれ被告らに対し金八、九二九円づつを請求しうることになる。

2、葬祭費等

<証拠>によれば原告うは亡幾之助の妻、その余の原告らは同人の子であるが、原告らは亡幾之助の葬祭を執行したことが認められるところ、その葬祭費等は経験則上少くとも金三〇万円とするのが相当である。しかして、前記の如く、その六割にあたる金一八万円が賠償額となり、さらに亡幾之助の前記過失を斟酌すれば、原告らが請求しうべき賠償額は金一四万四千円となるところ、特段の事情の認められない本件においては原告ら主張の如く原告らが均分負担したものと認むべく、しかるときは原告らはそれぞれ被告らに対し金一万八千円づつを請求しうることとなる。

3、慰謝料

(一)  亡幾之助分

本件受傷の部位、程度、亡幾之助の年令、本件事故前健康であつたことその他諸般の事情を考慮し、同人の精神的苦痛は金一五〇万円をもつて慰謝せられるべきものと認められる。

しかして、前記の如くその六割にあたる金九〇万円が賠償額となるところ、亡幾之助の前記過失を斟酌すれば請求しうべき賠償額は金七二万円となるから、原告うはその三分の一にあたる金二四万円、その余の原告らはそれぞれ二一分の二にあたる金六万八、五七一円(円未満四捨五入)づつを相続により承継取得したこととなる。

(二)  原告ら自身の分

本件に顕われた諸般の事情を考慮すそば、原告らが蒙つた精神的苦痛は原告うにつき金一〇〇万円、その余の原告らにつきそれぞれ金五〇万円づつをもつて慰謝せられるべきものと認められるが、前記六割にあたる金六〇万円を原告うが、金三〇万円づつをその余の原告らが請求しうべきところ、亡幾之助の前記過失を斟酌し、原告うの請求しうべき慰謝料を金四八万円、その余の原告らの請求しうべき慰藉料額を金二四万円づつと定める。

4、弁護士費用

以上原告うについての認容額は金七四万六、九二九円、その余の原告らについてのそれはそれぞれ金三三万五、五〇〇円づつとなるが、弁論の全趣旨によれば、被告らが任意に支払わないので、原告らは原告ら訴訟代理人に本訴提起を委任したことが認められるところ、本訴請求額、事案の難易その他諸般の事情を考慮すれば、原告らが請求しうべき弁護士費用の額は原告うにつき金七万円、その余の原告らにつきそれぞれ金三万円づつと定めるのが相当である。

五以上の次第で被告らは各自原告うに対し金八一万六、九二九円および内金七四万六、九二九円(弁護士費用を控除した金額)に対する本訴状送達の日の翌日であることの記録上明らかな昭和四九年一〇月二二日より、その余の原告らに対しそれぞれ金三六万五、五〇〇円づつおよび内金三三万五、五〇〇円(弁護士費用を控除した金額)づつに対する前同日より各完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金を支払うべき義務があるから、原告らの本訴請求は右の限度において正当として認容すべきも、その余は失当として棄却を免れない。

よつて、民訴法八九条、九二条本文、九三条一項本文、一九六条を適用し、主文のとおり判決する (太田昭雄)

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